謝成発さん

謝甜記 店主

 

 

 

次世代へ伝統を繋ぐ「中華街の仕掛け人」 

サンタが贈るお粥一杯の幸せ

 

 

 

 

異色の存在、サンタクロースの謎

 

「中華街にお粥を食べに行こう!」そんな根強いファンと観光客が行列するお粥専門店、「謝甜記」。横浜中華街の中でも、一際存在感を放つサンタクロースの看板が目印の赤い店だ。中華街でなぜサンタ?きっと誰もが一度は思ったことがあるだろう。その答えは、戦後の混沌期に裸一貫で海を渡り、中華街に根を下ろした先代親子と、街の変遷を見つめてきたこの店の物語の中にあった。

 

 

 

昭和26年開店当時、中華街は「南京町」と呼ばれ、外国人居留地だった付近一帯は米軍キャンプの兵士達で溢れていた。父・謝甜が店を構えた現在の中華大通りには、ダンスホールやパチンコ店、映画館、バー等、米国人兵士向けの店が軒を連ねる。ある年の冬、クリスマスの頃、店の向かい側のバーからサンタクロースが描かれた看板を父が譲り受けた。それが始まりだという。

 

「物が無い時代、父は使えるものを大事に使ったんだろうね。サンタクロースは世界中の誰もが知る、皆にプレゼントを届ける存在。この店も広く知られ、美味しいお粥を皆様にお届けできるように。そういう気持ちがあったみたいだね」 二代目オーナーの謝成発さんはそう語る。

 

物心ついた頃には、サンタの看板が店にあった。小学生の時は毎日閉店時間になると、この看板を中にしまうのが謝さんの仕事だった。以来ずっと、店には父のサンタの看板が掲げられている。

 

 

 

住民対立から関帝廟再建、そして現在

 

中国本土での混乱期を背景に、当時の中華街住民も台湾系と大陸系に対立を深めた。1952年、中華学校は二つに分裂。謝さん自身も山手の中華学校へ通っていたが、子ども達は関帝廟の周りで分け隔てなく一緒になって遊んだ。しかし、1970年代になると関帝廟への参拝はできなくなってしまった。住民同士の対立が続く中、1986年元日、関帝廟を火事が襲う。

 

「でも、あれは神様の力だったんだろうね。あの火事で街が一つになることができたから」と謝さんは言う。思想は違えども「同じ中国人同士」、住民達が共同で出資して再建へと乗り出した。こうして4代目となる関帝廟と共に、「一つの横浜中華街」が誕生した。

 

あの火事からまもなく30年。150年以上の歴史を持ち、チャイナタウンとしては世界でも稀な治安の良さ、ブランド力を誇る横浜中華街。後継者不足で閉店する店が増える一方、新華僑による食べ放題等の新しい店が続々と開店、街は再びその表情を変えつつある。中華文化を知らずに育つ住民も増えた。最近日本にやって来た者には、日本のマナーや商売の常識を知らない者もいる。伝統行事や街のイベント活動の人材不足にも直面している。

 

謝さんは今の状況を危惧する。

「自分の商売も大事だけど、街全体の1020年先を考えることが大事だよね。先代達が苦労して守ってきた街と伝統を若者達に引き継ぐのが自分の使命」と謝さんは語る。

 

現在、横浜華僑総会の会長、関帝廟の理事等5つの役職を務める謝さんの人生は、物心ついた頃から、この横浜中華街、関帝廟と共にあった。伝統行事や街の活動に勤しむ父の背中を見て育った謝さんにとって、街作りの活動に貢献するのは「ごく自然で当たり前のこと」だと言う。

 

「先ずこの街があって、我々が生きられる。でも、ずっと同じでは飽きられるし、自分もつまらない。だから新しいことを取り入れて、仕掛けていかないと。結局、お祭り好きなのかな?一緒にやらない?」 

そう言うと大きな目を細めて、くしゃっと笑った。

 

横浜中華街の仕掛け人は、街の伝統と父のお粥を多くの人へ届ける為に、今日もサンタのごとく中華街を奔走する。

 

 

 文・写真 茉莉花(2015年)

 

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【サンタクロースの看板】

行列のできるお粥屋さんとして、息子さんが経営する二号店と共に有名。赤い外観とサンタクロースの看板が、中華大通りの数多の店の中でも一際存在感を放つ。


【ピータン粥】

どんぶりにたっぷりと入った熱々のお粥。本場広東式のお粥は癖になる味。海鮮の旨味が効いて、あっさりと食べやすくおなかに優しい。

 


謝甜記

横浜市中区山下町165 (中華大通り) TEL:045-641-0779

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