華流映画コラム 


天使か魔物か?命がけの愛と執念!

『白蛇伝』の愛憎物語

洋の東西を問わず語り継がれた伝承や神話には『異類婚姻譚』をテーマとしたものが多い。男に命を助けられた女が実は動物、魔物の化身だった・・・というプロットはありふれたものだ。中国では怪奇譚集『聊斎志異』にも多く書かれており、日本では『雪女』や『鶴の恩返し』などの有名な物語を思い浮かべる人が多いだろう。

 

中国人なら誰でも知っている伝承『白蛇伝』もその典型である。風光明媚な浙江省の水の都、杭州の西湖を舞台に、貧しい薬売りの男・許仙と白蛇の精・白素貞の激しくも純粋な愛憎物語として知られる。

 

『白蛇伝』は京劇の演目として非常に人気があり、端午節前後の5月~6月頃になると多く上演される。

先日、ちょうど来日中だった中国国家京劇院の東京公演を観劇し、白素貞訳の主演女優で劇団一の若手俳優・付佳さんの取材の機会を得た。華やかな衣装に化粧、のびやかな歌唱にしなやかな演技、アクロバティックで華麗な立ち回り。愛憎渦巻くドラマティックなストーリーは感動の涙あり笑いあり、まさに中華カルチャーの総合芸術と呼ぶにふさわしい舞台であった。

 

奇しくも『白蛇伝』と日本とのつながりは深い。日本初のカラー長編アニメーション、東宝映画初の総カラー映画は共に、この白蛇伝をモチーフとした作品である。1956年、東宝映画と香港の映画会社・ショウブラザーズの共同制作で制作された映画『白夫人の妖恋』は、白娘:山口淑子(李香蘭)、許仙:池部良、侍女の小青:八千草薫、その他、東野英治郎や森繁久彌など当時のスター達が出演。白娘を演じる山口淑子は蛇のように怪しくなまめかしく、迫力すら感じさせる。特撮技術は第一人者である円谷英二氏が担当した。

 

中国伝承の「白蛇伝」の物語は、ハッピーエンドや悲劇として描いたものなど地方により色々なパターンがあるが、この特撮映画では、「妖怪」というオカルト色を強調し、女の一途な愛と表裏一体のヘビのような執念深さと妖艶な魅力に翻弄される一人の男の姿を描いている。

中でも、映画の終盤、許仙の妻への心情と態度の変容は非常に興味深い。今しがたまで妻を怖れ追い払おうとしていた男は、彼女が消えてしまった途端、「たとえおまえが(蛇だろうが魔物だろうが)何であっても私は構わない!」などと言い出す始末。そして、悲嘆にくれる許仙を諭す禅士に対して、堂々と開き直ってこう答えるのだ。――「人間の女にも蛇の心がありませんか?ただ一筋の女の妄執は白蛇の本性ではありませんか。男はそれが嬉しいのです!私は迷ってなどいません!」――男の見事な変わりっぷりに、いささか唖然としてしまう。

 

 

さて、男性諸君。「白蛇伝」の物語をストーカー気質の美女に翻弄された美男子の悲劇と感じるか、結ばれざる美男美女の悲恋物語と受け取るかはあなた次第だ。しかし、女性視点から一つだけご忠告したい。現実社会において、見知らぬ美女に急速にアプローチされたら、のぼせる前にご用心を。彼女の正体はあなたを喰らう「魔物」かもしれない!