華流映画コラム 


 

華麗なる恋バナ&中国料理の世界

 

恋人たちの食卓(原題:飲食男女)

監督/アン・リー(李安)

 

  中華圏の人たちにとって「食べる」行為とは、どうやらとても重要なことのようである。挨拶替わりに「ごはん食べた?」と聞きあう文化は我々日本人にはない面白い習慣だ。日々の生活の中で、彼らが食べることに非常に重きを置いていることをそのまま表していると言ってもよいだろう。

 山盛りの大皿が所狭しと並んだテーブルを家族で囲み、みんなで賑やかに箸でつつく。自分の箸で人の皿やごはん茶碗の上に料理を取り分けてあげる作法も、家族や友達想いの民族ならではのおおらかな中華の流儀だ。そんなどこか懐かしく温かな家族の食卓風景、豊な食文化は映画やドラマ作品の中にも垣間見られる。

 

 筆頭にあがるのは、やはり台湾の名匠アン・リー(李安)監督作品「飲食男女」(邦題:恋人たちの食卓)であろう。年老いた元コックの父親と年頃の三人の娘たちによる家族の姿、それぞれの生き方と恋愛模様を芳香な料理の世界を織り交ぜながら巧みに描いた傑作である。アカデミー賞やゴールデングローブ賞外国語賞にノミネートされた同作品は「喜宴」「推手」と共に「父親三部作」と呼ばれている。

 

 劇中に次々と登場する美味しそうな料理の数々。匂い立つようなライブ感溢れる物語冒頭の料理シーンには、ぜひ注目されたい。生け簀からすくい上げたばかりの大きな鯉をスイスイと捌いてから大鍋の油の中に放りみ、ジャーっと勢いよく揚げる。山盛りの生きたカエルの脇をすり抜けたかと思うと、ニワトリを鳥小屋からひょいと一羽掴んできて、あっという間にスープに変身させてしまう。リズミカルな手つきで包む小籠包は精緻な芸術品のようだ。厨房で包丁や鍋を操り、自在に舞う父親の姿は凛々しく美しく、名店の元料理人の威厳に満ちている。

 

家族や親しい友人と囲む色とりどりの中国料理と恋バナてんこ盛りの本作。しかし、それ以上に、監督が伝えたかったのは国境を越えて共通の普遍的なテーマであろう。すなわち、人生とは、食べることと、男と女が恋し求めあうことでできているのだと、時に切なく、コミカルに語りかけてくる。いくつになっても家族や恋人と繋がり、人生を謳歌したいという人間の「生と性」への欲求を「食」と対比させながら軽快にセンス良く描き出した逸品だ。

 

 視角というフィルターを通じて観る者の味覚や臭覚を存分に刺激する本作品。見終わる頃には、きっとおなかが空いているだろう。今宵、愛しいひとと美味しい中国料理を食べにでかけてみてはいかがだろうか?

 

 

文・写真/茉莉花 

 

イラスト/MameChang

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