華流映画コラム 


グラスに浮かぶ茶の葉が占う恋の行方

 

緑茶 

監督 チャン・ユアン(張元)

 

ベネチア映画祭銀獅子賞受賞「ただいま」(原題:過年回家)のチャン・ユアン(張元)監督作品「緑茶」。美しい映像美とサスペンスタッチのストーリー展開で中国の人々の新しいライフスタイルと価値観、都会で彷徨う男女の姿と人間模様を軽やかに描写、センス良く「魅せてくれる」恋愛ストーリーだ。

主演は「少林サッカー」(原題:少林足球)のヴィッキー・チャオ(趙薇)。最近日本でも公開された「最愛の子」(原題:親愛的)では、大切に育てていた子供からある日突然引き離される継母を演じた。相手役は「鬼が来た!(鬼子来了)」等で監督としても活躍するジャン・ウェン(姜文)。本作中でヴィッキー・チャオは、地味で内向的な大学院生ウー・ファンと妖艶な高級娼婦ランランという対照的な二役を演じ分けている。

 

 

映画は、見知らぬ男女二人が北京のカフェで落ち合い、デートをするシーンから始まる。テーブル上のグリーンに光る「緑茶」のグラスを挟み、大学院女子学生ウー・ファンが淡々と語る「物語」を軸に展開する。ウー・ファンは「友達」の過去を語り、その友達はお茶で恋愛占いができるという。ミン・リャンが次第に物語に引き込まれ魅了されていく様をテンポよく描いている。まだ若く瑞々しいヴィッキー・チャオの魅力が存分に引き出された作品だ。

 

劇中度々登場する長いグラスに泳ぐ緑色の茶葉の映像―。薄緑色の茶湯の中で静かに旋回する茶葉は、主人公の二人の運命を暗示するかのように美しく象徴的に映し出される。ウォンカーアイ(王家監督作品「恋する惑星」「花様年華」などでお馴染み、クリストファー・ドイルによる印象的なカメラワーク、映像美が本作でも魅せる。

また、最先端の洗練されたカフェやレストラン、失われつつある古い路地や住宅などが混在した風景も、発展の最中にある当時(2002年公開)の北京の息遣いを感じられて面白い。

 

 

ところで、中国に行ったことのない読者は、熱いお茶がお茶っ葉ごとなみなみグラスに注がれている様に驚くかもしれない。しかし、あちらのレストランやカフェなどで、このスタイルはごく普通のものである。流行りの店などでは、グラスの周囲に紙ナプキンがおしゃれに巻きつけられているところもあり、「緑茶=なんとなく渋いイメージ」の日本とは、ちょっと異なる感覚だと言える。ただし、コレを飲むときに茶葉が口に入らないようにするには、ちょっとしたコツが要る。上唇をできるだけグラスに平たく密着させて、下唇を開き加減にして注ぎこまれるお茶を受ける。そんなイメージで試してほしい。私も最初の頃は苦労したが、次第にコツを覚え、今では中国人に引けを取らないと自負している!?

 熱い緑茶をグラスに浮かべながら、華流映画的恋愛ストーリーに浸りたい、監督と女優の瑞々しい感性と映像美が光る秀作だ。

 

文・写真/茉莉花 

イラスト/MameChang

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